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無常観と「羊のあゆみ」

 文献上、日本にはじめて羊がやってきたのは『日本書紀』推古天皇七年(599)九月一日、「百済、駱駝一疋、驢一疋、羊二頭、白雉一隻を貢る」にさかのぼる。外交上のプレゼントになるくらいだから珍獣であったにちがいない。
 数少ないその後の史料においても、羊は政治臭をまとわせられた貢物でありつづける。したがって、日常的に未ひつじ方のかた、未ひつじ刻のこく、未ひつじ年ど しなどとはいいながら、庶民にとって十二支の「未」は、動物の「羊」とはまったく無縁。おそらく想像と観念の中にしか住んでいなかったと思われる。
 たとえば、勅撰和歌集『千載集』にこんな一首がある。

けふもまた午うまの貝こそ
   吹きつなれ
  ひつじの歩み近づきぬらん

『栄花物語』の作者として知られる赤染衛門(956?~1041年)が山寺に詣でたときに詠んだ歌だが、午うま刻のこくに法螺貝が鳴った。その音色をききながら、屠所にひかれる羊の歩みのように寿命が刻々と尽き、死が近づいていることをしみじみと感じさせられたというのである。
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