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フレンチルネサンス様式を基調とした木造瓦ぶき2階建ての建物は、まさに当時の建築美の粋といえるものだったろう。皇太子の鳥取行啓の折には、県下で初めてとなる電灯がともされ、室内のシャンデリアとイルミネーションが鳥取の夜空を華々しく彩った。その明かりは、鳥取に明治の文明開化の到来を感じさせたに違いない。
 凛とした空気が流れる内部の意匠も圧巻だ。1階は鳥取藩や池田家ゆかりの品が並ぶ展示室となっており、2階に「謁見所」や「御座所」、「御寝室」といった、皇太子が宿泊された当時の部屋が残されている。イタリア産の大理石やイギリス製のタイルなど、海外から最先端の素材を取り寄せてしつらえたマントルピース(暖炉飾り)を始め、金の装飾がほどこされた椅子、和洋折衷のカーテンボックスなどの繊細な職人技に目を奪われる。見どころの一つが、館内の奥、外観を特徴づけていた塔の内部にあるらせん階段。高さ4mの階段は、硬いケヤキを彫った「ささらげた」と呼ばれる厚板のみで支えられており、支柱がない。その技術力の高さはもちろんのこと、構造の美しさ、窓を背にした曲線のしなやかな優美さは、まさに芸術と呼ぶにふさわしい。この階段が、使用人のために作られた階段だということにも驚かされる。館内にはもう一つ、手すりに細やかな装飾を施し、絨毯(じゅうたん)を敷いた、これも美しい別の階段があり、上ってすぐのホールに東郷平八郎の額がかけられている。家主や客人は、こちらを通って2階へ上っていたそうだ。
 2階の謁見所から、心地いいベランダに出る。ここから、近年、映画『るろうに剣心』の舞台となって話題を集めた、広大な池泉回遊式日本庭園の宝隆院(ほうりゅういん)庭園が一望できる。宝隆院とは、若くして夫を亡くした11代藩主・池田慶栄(よしたか)の夫人のことであり、12代藩主・慶徳(よしのり)が、夫人を慰めるために造ったのがこの庭だという。久松山を背景にした、山裾の台地に設けられており、晴れた日には鳥取が誇る自然遺産、大山(だいせん)まで見渡せる。整備された庭園を眺めながら、ゆったりとそよ風に吹かれていると、時代をさかのぼったような錯覚にとらわれる。
 仁風閣の立つ久松公園は、桜や紅葉の名所としても知られ、久松山全体が世界ジオパークに認定される山陰海岸ジオスポットとなっている。白く瀟洒な洋館は、周囲の緑と鮮やかなコントラストを成し、絵画のような風情を持つ。吉田璋也が「明治開化の生んだ白亜の芸術品」と称した仁風閣は、築100年を超えてなお、多くの人を引きつけている。
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