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質的には、政府が「成長戦略」と称する規制・構造改革を本格的に進め、日本経済の生産性を大きく引き上げることが最重要であることに間違いはないのだろう。しかし、それには相当の時間が必要となる。その時間をかけている間に、あろうことか日本の景気が腰折れしてしまっては元も子もない。
 そこで、安倍政権は国内外から有識者を集めて、世界経済情勢について意見を交わすための「国際金融経済分析会合」を3月以降に複数回開催することとした。その初会合に招かれた有識者の一人、ジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授は、日銀のマイナス金利政策について「効果には限界がある」、「今、必要なのは財政政策に他ならない」などと述べ、さらに「今消費税率を再度引き上げる
べきではない」との見解を示した。第3回会合に招かれたポール・クルーグマン米プリンストン大名誉教授も「消費税率アップは今やるべきことではない」と増税反対の姿勢を鮮明にし、もはや市場や世間では「2017年4月に予定される消費再増税は再延期必至」と見る向きが大勢を占めるようになっているとの感がある。
 7月に参院選を控えた今、政府与党内でも“国民受けが良い"と思われる増税延期に賛成を唱える向きは少なくない様子。単眼的に見れば、われわれ国民もとりあえず増税が見送られることについて、歓迎と言えるのかもしれない。ただ、そもそも消費増税の主目的が、今も膨張し続けている社会保障費用負担をカバーするためであるという点を見失うことはできない。もちろん、前出のスティグリッツ氏やクルーグマン氏も「未来永えい劫ごう封印せよ」と言っているわけではないのである。
 本来、もっとずっと早い時点で増税しておかねばならなかったと考える専門家も少なくない中で、予定されていた増税がいったん延期となった場合、果たして国民が将来受け取る公的年金などの社会保障は、今後も維持し続けられるのか。少々心配になることも事実であり、やはりここは“私的な保障(年金等)構築"のための工夫を、極力早い時期から怠りなくしておく必要がありそうだ。
(左)資本主義の課題とその解決策を再考する!
本書の議論は、マルクスの『資本論』の論理と卓越したマルクス経済学者である宇野弘蔵の経済学に依拠し、現代の資本主義の最大の課題は「資本の過剰をどう処理するか」にあると説く。安倍政権については「軍事産業の対外輸出を最大の成長戦略と位置付け、資本の過剰を乗り切ろうとしている」などと解き、さらにTPPやイスラム国(IS)、金融政策などのトピックにも触れ、その本質を解き明かして行くくだりは読む者を圧倒する。
『資本主義の極意』佐藤 優著/ NHK出版新書/ 842円
(右)田嶋智太郎(たじま・ともたろう)
金融・経済全般から戦略的な企業経営、個人の資産形成まで、幅広い範囲を分析、研究。講演会、セミナー、テレビ出演でも活躍。 tomotaro-t.jimdo.com/
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