
2016年に発表した新作は、日本のオリジナリティーを意識して梅をモチーフとした。「梅やわらかに 香り」をタイトルに、華やかな色合いで春への予感や喜びを表現している。新作はブランド全体のバランスを考慮しながら毎年2〜3柄を追加。

この繊細な図柄や奥行き感を実現できるのは、川島織物セルコンの技術者が持つ技術力と本田氏のキャリアがあるからこそ。実は本田氏が入社後にまず担当したのは、織物の組織を決定する「織物設計」。同社のファブリックは基本的に糸を先に染めてから織り上げる「先染め織り」で製作し、縦糸と横糸の組み合わせでさまざまな図柄を表現する。織物設計とはデザイナーによる図案を実際に織物で表現するために、使用する糸の素材や太さ、色を選定し、配列を決めていく作業だ。糸の中には目に見えにくいほど極細糸もあり、1㎝に100本以上もの糸を配列することも多いというから、その作業は想像を絶するほど緻密(ちみつ)なもの。本田氏は、この織物設計の経験に基づき、企画からデザイン、製作に至るまでを一貫して監修。同時に全ての工程を京都の自社工場で行っているからこそ、独自の世界観を表現し、人々を魅了する製品を生み出すことができる。
また、数ある織物技術の中でも、異なる糸を用いて二重に織る「風通織り」を巧みに取り入れているのがSHの一つの特徴。これにより、見る角度によって表面からは見えない糸の色彩や素材感が感じられ立体感が生まれる。カーテンに光が差し込むと織物の輝きは一段と増し、見るたびに異なる表情が楽しめるだろう。
「ファブリックで家の中にストーリーを作って、世界観を楽しんでほしい」と本田氏。季節の花をさりげなく飾るように、お気に入りのファブリックで住まいを彩る。それだけで暮らしがより楽しく、心が豊かになるのではないだろうか。
川島織物セルコンインハウスデザイナー
本田純子(ほんだ・すみこ)
1986年、川島織物(現川島織物セルコン)入社。数年にわたり織物設計を担当し、アメリカのスミソニアン協会の所蔵となるファブリックの設計を手掛けた実績を基に、1998年、Sumiko Hondaブランドを発足。日本の表情豊かな四季の情景を織物で描き出し、国内外から高い評価を得ている。
Photo TONY TANIUCHI