「垂直」と「水平」の人
建築家コルビュジエが画家だったことは広く知られていないかもしれない。父親が時計職人であり自然に美術学校へ進んだという彼は、常に絵筆を取り続けていた。1918年には画家アメデ・オザンファンとともに、ピカソのキュビスムに対抗した水平で垂直な輪郭を強調するピュリスム(純粋主義)を提唱する。大きな発展は叶わなかったものの、それ以降、彼の表現の幅は飛躍した。詩画集や雑誌の出版、彫刻、名作LCシリーズの椅子等、多様な作品群を見ていると彼にとって表現形態は何でも良かったのでは?と思えてくる。生涯を通して本職だった「建築家」と「画家」に対しても、彼の心の中ではどちらにも重きを置かず、ただイン/アウトプットのバランスを取っていただけのように感じるのだ。建築スタイルにおいて「垂直」と「水平」というふたつの側面によって最上の形式を見出すように、彼は自分自身にもその作用を活かしていたのではないだろうか。

蟹の甲羅からヒントを得たとも言われるロンシャンの礼拝堂。