

(左)コンパスと定規で丁寧に描かれた下絵。地域の文化や特色、時代背景を生かした模様が描かれる。(右)定期的に修復を行う
イスラーム建築。物資不足のアフガニスタンでも、若手がベテランから学んでいた。
文化は、伝承進化形であれ
石や漆喰を使った建築は、必ず経年劣化する。イスラーム建築も例外ではなく、いまも世界中で劣化したモ
スクや住宅の改修工事が行われているのは間違いない。日本人のリノベーションは「課題を解決し、快適な
暮らしを実現するもの」だが、イスラーム世界の場合は「共同体文化の伝承と「地域文化の伝承」という価値
観も加わる。まず、イスラーム建築を修繕工事するためには、イスラーム世界の建築と美術について相応の
スキルが求められる。アッラーを崇拝するイスラームの統一性を実現するためである。同時に、とあるモス
クを修復するには、その地域文化に根付いた設計手法や建築素材、伝統文様などを知らなければならない。
これらの学習要素を若手の作業員は経験豊富な職人に付いて学ぶ。人材が不足している際には、別の国か
ら職人を呼ぶこともあるという。イスラーム建築の多様性の発達はいまもゆるやかながら続いているのだ。

下絵に沿って石灰を削ることで、背面に貼付けていた鏡が現れ、複
雑な模様が鮮やかに浮かび上がる。