
暇さえあればTGVに飛び乗り、ポタジェに赴くパサール。栽培家たちと語
り合い、敷地内にある古いシャトーのキッチンで料理をつくる時間は、パサ
ールにとって至福のひと時。ここは、彼にとってこの世の楽園なのだろう。


敷地の一隅には、古い城館が残っている。リクエストに応じて開放し、パサール自らディナーを披露することもある。
レストランで出るくず野菜はポタジェに持ち帰り、時間をかけて堆肥にし、生育中の野菜の肥料として利用している。
そして野菜は、稀有な料理となる
冬場は週2〜3回、生命力が盛んになる夏場は「アルページュ」の全営業日に当たる週5日、毎朝
このポタジェからパリまで、収穫物が運ばれる。朝、この店の前を通ると、まるで即席の青物市場
が立っているかのように、力強い野菜や果物、そして香草の香りに包まれる。小型バンの到着とと
もに、従業員総出で野菜の搬入。熱気的な雰囲気の中で、厨房に運ばれる野菜を一つ一ついつくし
むように手に取り、味を見ては頬をほころばせるパサール。そうして野菜たちと語り合い、料理の
イメージを決めていくのだろう。あきれるほどにシンプルで飾り気のない「アルページュ」の料理
は、初めて訪れるゲストを困惑させるかもしれない。これが3つ星料理なのか?と。ここで供され
る料理には、形の前に味があり、装飾の前に食材がある。天才料理人が追及した理想の料理の原点
は、「シャトー・ドゥ・グロ・シェスネー」という野菜の王国なのだ。