
街の薫り−東京 田園調布

木漏れ日の美しい田園調布の昼下がり。白亜の邸宅には高級
車が並ぶ
庭園のように美しい住宅街の最高峰
イチョウ並木の続くゆるやかな弧を描く道路の両脇には、手
入れの行き届いた生垣、美しい庭に囲まれた大邸宅が建ち並
び、見るものの嘆息を誘う。明治の実業家、渋沢栄一翁が欧米
のような美しい街並みを日本にもという理想を掲げ、創り上
げた理想郷、田園調布である。駅から放射状に延びる道路は、
パリの凱旋門のあるエトワール広場に倣ったもので、街路樹
のイチョウが見事に育っている。渋沢はアメリカやイギリス
などを視察し、田園と都市の要素を取り入れた自然豊かな近
代住宅を求めて1918年に開発に着手した。当初は都心から遠
いという理由で、中流サラリーマンでも手に入るような中間
層を対象にした住宅地であったが、関東大震災を境に、ほとん
ど被害のなかった田園調布の豊かな自然と広い敷地、整備さ
れた道路に惹かれ、都心の富裕層が続々と移り住み、関西の
芦屋と並び称される高級住宅街としての礎を築いた。