

(左)バンコクのドンムアン空港で発見した非常口のピクトグラム。「逃げ出す人」は世界
共通である。(右)アメリカなど一部の国では独自のデザイン案を採用。「EXIT」などの文
字だけで表示されている。

ピクトグラム−その世界
Photo&text Hiroshi Urata
世界をリードした日本発の「非常口」
高度経済成長期、日本全体が上を向いて歩いていた時代に、「逃げること」で世界標準を勝ち取った日本人がい
た。あの誰もが見たことのある非常口の図記号=ピクトグラムをデザインした多摩美術大学造形表現学部教授
の太田幸夫氏が、その人である。一見シンプルなデザインだが、「誰にでも見えやすく、分かりやすく」という観
点から見て、極めてレベルの高い作品である。まず、影が伸びていることに気付く。外は日の光が届く安全な場
所で、手前が災害の場所。「やっとたどり着いた」という時間的概念と「安全な場所」という訴求力を兼ね備えて
いる。ソ連と争ったISO国際標準化機構の最終選考では、「ドアの有無」が争点になった。ドアがない建物への配
慮が評価され、日本が勝利したという。モノづくり大国日本を物語るデザインの完成度を背景に、「いつ起こる
か分からない災害だが、とにかく生き残ってほしい」という太田氏の想いが、今日も世界各地で活躍している。